なりさん駕籠かきの暮らしぶりを教えて。
駕籠かきとは何者か――華やかな移動の裏にいた職人たち
正直に言います――駕籠かき、めちゃくちゃ過酷な仕事でした。
「殿様や富裕層を運ぶ」という誇りと、「汗臭い・無作法」と蔑まれる哀しみを同時に抱えていました。
駕籠かきは『底収入労働者』ではなく『不安定な個人事業主』だった」月収24万~32万円という数字だけ見れば、現代の中小企業経営者や個人事業主と大差ない。
しかし、決定的に違うのは「セーフティネットの有無」だ。雨が降れば収入半減。怪我をすれば即失業。病気になっても医療保険はない。40代で体が壊れたら、あとは家族・親戚に頼るか、貧困に沈むかの二択。
つまり、駕籠かきの「過酷さ」とは、「稼げない」ことではなく「安定しない」ことだったのです。
①駕籠かきの基本プロフィール
| 項目 | 内容 |
| 年齢層 | 20〜40代中心(体力勝負) |
| 身体条件 | 身長155〜165cm、体重50kg台 |
| 雇用形態 | 日雇い または 請負(歩合制) |
| 所属 | 町駕籠屋(都市部)/宿場の駕籠宿(地方) |
足腰の強い庶民男子が担い手でした。
②生活と収入――「食いつなげる」程度
| 項目 | 詳細 |
| 日当 | 200〜300文 (重労働日は400文) |
| 月収 | 6,000〜8,000文(天候によって半減することも) |
| 食事 | 朝: 粥+味噌汁 / 昼: 握り飯+漬物 / 夜: 安酒+煮物 |
| 住居 | 長屋暮らし (1間半の狭い部屋を数人で共同生活) |
| 休日 | 雨天・客なしの日 (決まった休日制度なし) |
| 娯楽 | 風呂屋・居酒屋・相撲見物 (小金が入るとすぐ飲む) |
100文 = 約3,000〜4,000円
決して豊かではないが、食いつなげる程度。
ただし、怪我・病気で突然収入が途絶えるため、安定性は低い。
③肉体的負担と職業病――「駕籠肩」の職人たち
①肩の腫れ・皮膚の硬化
- 駕籠棒の摩擦で常に肩が擦れる
- 皮が厚く黒くなる→「駕籠肩」と呼ばれた
②腰痛と膝痛
- 数百段の階段や坂道を担ぐ
- 慢性の腰痛もちが職業病
③夜目・聴覚の鍛錬
- 夜道の移動時には提灯を持ち、足音や風音で路面を判断
- 一種の「体感ナビゲーション能力」
④寿命
- 平均40代半ば
- 過労・怪我・栄養不良が原因
つまり、駕籠かきは「肉体を削って稼ぐ」仕事でした。
④駕籠かきの人間関係――「呼吸が合わないと客が揺れる」
相棒制度
- 前と後ろのペアは「相棒」
- 呼吸が合わないと客が揺れて怒る
- 息の合う相棒とは長年組んだ
徒弟制度
- 宿場では駕籠宿の親方を頂点に徒弟制度
- 若手は下働きから修行を積んで一人前に
「駕籠の揺れは心の揺れ」と言われるほど、
相棒同士の喧嘩や不和はすぐ仕事に出たそうです。
⑤誇りと哀しみ――「殿様を担ぐ」誇りと「汗臭い」蔑み
誇り: 藩の専属駕籠かき
- 「殿様や大名を担ぐ」という誇り
- 特に藩の専属駕籠かきは“家中の一員”として扱われた
- 正装の羽織・袴を与えられ、御用旅では食宿つき
哀しみ: 町駕籠のかき
- 「汗臭い」「無作法」と蔑まれる
- 女性客から「手ぬぐいで顔を覆われた」記録も
- それでも駕籠を降りると「お疲れさま」と小銭を渡してくれる客も多く、小さな誇りを胸に生きた
⑥駕籠かきの消滅とその後――人力車への転職
明治初期: 人力車の登場(1870年代)
- より軽く・速く・安い人力車に完全に取って代わられる
- 駕籠かきの多くは人力車夫へ転職
- 「肩の力を足に変えた」とも言われた
まとめ: 駕籠かきは「呼吸と姿勢を読む”身体知”のプロ」だった
| 項目 | 内容 |
| 収入 | 月6,000〜8,000文 (食いつなげる程度) |
| 暮らし | 長屋の共同生活・粗食・娯楽は風呂と酒 |
| 職業病 | 駕籠肩・腰痛・膝痛・平均寿命40代半ば |
| 誇り | 殿様を担ぐ / 相棒との信頼関係 |
| 哀しみ | 汗臭いと蔑まれる / 怪我で収入途絶 |
| 消滅 | 明治初期に人力車へ転職 |
駕籠かきは飛脚と並んで相当な肉体労働を強いられ、握り飯と漬物だけで一日中働いていたのです。
重い駕籠を担ぎ長時間歩く過酷な仕事により、腰痛や背骨の変形、肩や膝の慢性的な疲労などの職業病を抱えていました。
明治に入ると道路の整備に伴い急速に人力車に取って代わられ、明治5年(1872年)までには交通・運送手段としての役割を終えてほぼ姿を消してしまいました。
駕籠かきは、ただの「運び屋」ではなく――
「揺れを殺す歩法」「呼吸を合わせる技術」「路面を読む感覚」を極めた、肉体労働のプロフェッショナルだったのです。
「駕籠旅の費用|庶民の『たまの贅沢』から大名の豪遊まで」はこちらを参照。
実際の乗り心地は「駕籠の乗り心地|『耐える』だけじゃなかった職人技」について。
「駕籠かきの暮らしぶり|江戸の”影の交通インフラ”を担った肉体労働者たち」で生活ぶりを紹介。
江戸の一日というシリーズで「江戸・駕籠かきの一日|肩に命を乗せて、足で道を読む」を紹介しています。
生活編
あの時代、人々はどんな生活をしていたのだろう?衣食住から働き方まで、素朴な疑問にわかりやすくこたえます。







