大阪城を築いた人々|「石垣の一段に一人の命」と呼ばれた現場

戦国時代。戦のあとの村を復興している土木作業する人と指示する役人
なりさん

「戦国の復興経済─命懸けで稼ぐ職人と、恩義で動く労働」という記事の文末にあった続きを聞かせて。

歴史の実生活
戦国の復興経済|命懸けで稼ぐ職人と、恩義で動く労働 | 歴史の実生活 戦国の焼け野原から立ち上がった「再建の力」。職人・運送業者・村人が命を賭して動いた復興現場と、その中で芽吹いた地方経済の台頭を歴史の実生活視点でひもとく。

では、大阪城・伏見城・名古屋城などの実際の普請現場で働いた職人・人足の実態(給与・生活・危険)をドキュメント風に掘り下げてみよう。

戦国末〜安土桃山期の「普請現場(ふしんげんば)」を舞台にした、ドキュメント風再現でいこう。
たとえば大阪城築城や伏見城・名古屋城建設――あの巨大プロジェクトの裏側で、職人や人足たちがどう働き、どう食い、どう死んでいったのか。

――現場の空気まで感じられるように描きます。


ドキュメント:戦国普請の現場より

第一章:夜明けの号令

夜明け前、太鼓が鳴る。
霧に包まれた谷を、数千の人足がざわめきながら動き出す。

山の上からは、「普請奉行」の馬の蹄の音
命令ひとつで、今日の仕事の範囲とノルマが決まる。
彼らの目的は「天守を一寸でも高く積み上げる」こと。
そして働く者の目的は――「今日一日を食うこと」。


第二章:人足(にんそく)――最下層の歯車

身分と出自

人足の多くは、

  • 村から徴発された農民
  • 難民・浮浪民・破落戸(はらくど)
  • 刑罰代わりの労働囚
    など。

中には「食えるなら何でもする」と、他国から流れてきた者も。
彼らは無宿(むしゅく)=住所不定の労働力として扱われた。

日当

支給は主に米または銭。

  • 米:一日 1合〜2合(約150〜300g)
  • 銭:5〜10文(現代換算で300〜600円程度)
  • ほかに、味噌汁と塩魚の支給。

ただし雨天や資材遅延で作業が止まると、その日の賃は出ない。
「雨が降れば腹が減る」のが常だった。

危険

  • 石垣の崩落、丸太の転倒で即死や重傷
  • 熱中症・脚気・破傷風。
  • 伝染病(赤痢・疫痢)で一夜に数十人が倒れることも。

死者が出ても、名前の記録はない。
夜にそっと、堤の裏に穴を掘って埋める。


第三章:職人――命を削る「技の人」

種類

  • 大工(棟梁・木挽):骨組み・木材加工。
  • 石工:石垣積み。
  • 左官:壁塗り・土塀仕上げ。
  • 鍛冶:鉄釘・金具製造。

彼らは腕が命。
棟梁級になると、奉行所から直接「指名」がかかる。
渡り職人たちは、

「この石垣はわしが積んだ」
と誇りを持って全国を転々とした。

報酬

職人の日当は人足の5倍前後。

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職種日当備考
棟梁30〜50文設計・監督も兼ねる
大工・石工15〜30文熟練度により変動
左官・鍛冶10〜20文材料費込みの場合あり
人足5〜10文労務のみ

彼らは飯も酒も良いものを食べられるが、現場は常に危険。
「石垣の一段に一人の命」と呼ばれたほど。


第四章:現場の生活

宿泊

  • 仮設の飯場(はんば)や長屋小屋に雑魚寝。
  • 職人と人足は階層で分けられ、飯も別。
  • 夜は松明の灯の中で、博打・喧嘩・盗みも日常。

酒は唯一の娯楽。
「今日は崩れなかった」「指が残った」――そんな夜にだけ、ぬるい濁酒を回し飲みする。

医療

治療はほとんどない。
傷口は灰や酒で消毒、包帯代わりに布切れ。
死亡すれば「塚」に葬られ、次の日には新しい人足が補充された。


第五章:指揮する者たち ― 普請奉行

普請奉行は、軍政官でもあり現場監督でもある。
彼らは「完成日=主君の威信」と信じ、過労死寸前の労働を強制した。

例:大阪城築城(1583〜1598)では、

  • 延べ30万人以上が動員。
  • 土木用の石材を全国から搬入。
  • 運搬中の事故・倒壊・病死は数知れず。

だが、これを成し遂げたことで、普請奉行・大名・棟梁たちは“功労者”として出世
つまり、上に行く者と、下で倒れる者が同じ場所にいた。


第六章:物流と補給の裏側

資材は全国から集まる。

  • 石材 → 瀬戸内から船で輸送。
  • 杉・檜 → 吉野・紀伊の山から筏で搬送。
  • 鉄 → 但馬・近江の鍛冶職人が加工。

この運搬を担ったのが、馬借・船頭・近江商人
彼らには高額の運賃が支払われ、普請現場の裏では「運び屋バブル」が起きていた。

だが、荷崩れ事故や盗賊被害も多く、護衛の兵が「普請警備」として配置されていた。


第七章:祈りと終わり

工期が終わる頃、
死者の数は帳簿に書かれず、塚だけが残る。

村人が建てた地蔵には、こう刻まれている。

「此下ニ人足三百有余人之骨ヲ葬ル」

完成した城が輝けば輝くほど、
その石垣の下には、名もなき人の骨が眠っていた。

だが彼らの手によって、焼け野原の国が立ち上がったのも事実。
職人たちは戦を終わらせた“最後の兵士”でもあった。


【総括】

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項目内容
賃金体系日当制(人足5〜10文、職人15〜50文)+食糧支給
労働時間夜明け〜日暮れ、雨天は休みだが無給
危険度高(落下・感染・過労死)
雇用形態雇い・徴発・請負の混在
社会的意義戦後復興とインフラ整備を支えた庶民の労働
精神的側面「壊れたら、また作る」――再建こそが祈り

参考・参照リンク(戦国時代)

※本カテゴリの記事は上記の公的史料・展示情報を参考に再構成しています。


戦場と民衆

戦国時代は、武将だけの物語ではない。 戦場になった村の人々は、どう生き延び、どう立て直したのか。 逃げる、交渉する、武装する――民衆のサバイバル術。 そして焼け野原からの再建。 名もなき人々が支えた、戦国のもう一つの歴史。


政治経済編

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